スピノ遍歴

恐竜を含む古生物は、そのほとんどが生きていた姿を直接見ることはできません。

図鑑に載ってる恐竜も、映画に出てくる恐竜も、あくまで骨の形などから推測されたイメージです。

しかも、必ずしも全身の骨が見つかるわけではないので、足りない部分は似たタイプの恐竜を参考にしたりして考えるしかありません。


従って「最初はこんな姿だと思ってたけど、研究が進んだらちょっと違うことがわかった」なんてことはよくあります。

そんな中でも、スピノサウルスは発見当初から復元イメージが色々と変わった面白い例だと思います。


スピノサウルスの化石が最初に発見されたのは1915年のことですが、この化石は第2次世界大戦中の空襲によりバラバラになってしまいました。

スケッチや写真しか無い状態で「背びれのある恐竜」「歯の形状から魚を食べてた可能性が高い」ということくらいしかわからなかったようです。

そのため私が子供の頃(1990年ころ)の恐竜図鑑には、一般的な肉食恐竜に半円状の背びれが付いたような絵が載っていたりしました。

私が小学生の時に買ってもらった 『恐竜 学研の図鑑』 より 

その後1996年に細長い頭骨が発見され、バリオニクス(スコミムスも仲間)に近い種だということがわかり、これを参考に復元されるようになります。

2001年に公開された映画により、ティラノサウルスより大きい肉食恐竜として、スピノサウルスは一気に有名恐竜に仲間入りします。

今でもスピノサウルスと言われるとこの姿を想像する人が多いと思います。

WIndows10に付属のアプリ「ペイント3D」の3Dライブラリより


しかし、さらに骨格が発見されると「後ろ足が短い」と言うことが分かってきました。

こうなるとバンランス的に2足歩行は難しく、4足歩行していた可能性が浮上。

獣脚類(全ての肉食恐竜を含むグループ)で4足歩行の恐竜は今まで1種もいないので、これはなかなか驚きです。

ところが、4足歩行をしようとすると前足の指を外側に広げるようにしないと地面に手のひらを着けられません。

しかし彼らの指の関節は外側に曲がらないので、ゴリラのように手を握ったまま地面に着ける復元がされました。



それと同時に「水中生活説」も以前から囁かれていました。

魚を食べていたことや、指に水掻きがあった可能性から、スピノサウルスは普段から水中で生活していたという考えです。

また、ほとんどの恐竜は軽量化の為に骨が空洞になっていますが、スピノサウルスの骨は現生の水中生物と同様に中身が詰まっています。(スキューバダイビングの時に重りを身に付けるのと同じ)

もし水中生活をしていたのなら、不自然な格好で4足歩行する必要はなくなります。

Mike Bowler from Canada, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

しかし泳ぐとなると、自慢の背中の帆が意味不明になります。

それどころか帆が邪魔で体をくねらしにくく、泳ぐには適していないともいわれていました。

他にも水中生活には向かない特徴がいくつかあり(詳しくは隣のパネル参照)、スピノサウルスの生活様式については議論が続いていました。



そして2020年4月末、世の中にコロナウィルスが蔓延し、我々の生活が大きく変わり始めた頃、学術誌ネイチャーによりスピノサウルスに関する衝撃的な研究成果が公表されました。

スピノサウルスの尾の本当の形状が分かったというのです。

今までは「バリオニクスと同じような形だろう」と考えられてたその尻尾は、骨が縦に長く伸び、まるでオタマジャクシのような形をしていたのです。

これはもう、素人目に見ても泳ぐのが得意そうですね!
この発表により水中生活が確定的となりました。


とは言え、これでスピノサウルスの全てが解明されたわけではありません。

もしかしたら水中タイプとは別に陸上タイプの種がいたかもしれません。
普段は水中生活だとしても、少なくとも産卵時にはウミガメのように陸に上がったはずです(爬虫類の卵は水中では溺れてしまう)。その時にどんな歩き方をしたのか…。

背中の帆の形も、最近は中央が窪んだ長方形で描かれていますが、「見つかった化石の中央が折れちゃってただけで、本当は半円形だった」と言う人もいます。


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