隕石落下説①

「恐竜は、巨大な隕石(小惑星)の落下により絶滅した」

Don Davis/NASA, Public domain

このエピソードは、もはや一般常識と言っても良いほど世の中に浸透していると思います。

しかし私が生まれるより前は、栄華を極めた恐竜達がなぜ地球上からいなくなったのか、誰にも分かりませんでした。

我々人類は、どうやって過去に巨大な隕石が落下した事実に気が付いたのでしょうか。


1970年代、カリフォルニア大学の地質学者ウォルター・アルバレスは、地層に含まれる珪藻類の研究をしていました。

【ウォルター・アルバレス(2014年撮影)】
Orangeboxes2, CC0, via Wikimedia Commons

珪藻は昔から水の中にいる植物性プランクトンの一種で、これの死骸(殻)が大量に海や湖の底に溜まって化石になったものが「珪藻土」(足ふきマットに使うアレ)です。

恐竜が絶滅する直前の中生代白亜紀末期の地層と、その後哺乳類達が台頭してきた新生代古第三期初期の地層には珪藻がたくさん見られるのに、その間に挟まる2センチほどの粘土質の地層からはまったく見つかりません。

つまり恐竜が滅んだタイミングで、ほとんど生物がいない期間があったのです。

約6600万年前のこの地層を「K-Pg境界」と言います。

ウォルターはこの「生物がいない期間」がどのくらいの長さだったのか調べることにしました。

そこで注目したのが「イリジウム」という物質です。

イリジウムとは、地球上にはほとんど存在しないレアアースの一種で、宇宙から隕石や塵として降り注いでくるのです。

一年間に降り注ぐ量がほぼ一定なので、K-Pg境界内のイリジウム濃度を調べれば、それがどのくらいの期間で作られたのか分かるだろうと考えました。


ウォルターはさっそくノーベル物理学賞の受賞経験もある父の協力も得て、イリジウムの濃度を計測しました。

すると想像をはるかに越えた、とんでもない量のイリジウムが検出されたのです!

これは長時間かけて自然に地層が作られたと言うレベルではありません。

何者かが、宇宙から大量のイリジウムを運んできたとしか考えられません。


こうして1980年に「巨大な隕石が落下して、恐竜達は絶滅した」という論文「アルバレス仮説」が発表されました。



しかし当時は否定的な意見も多かったようです。

先ほど「イリジウムは地球上にはほとんど存在しない」と書きましたが、実は地球の内部にはもともと存在し、マントルの中に大量に含まれているのです。

「当時の地層にイリジウムが大量に含まれているのは、火山が噴火したからだ」と言う意見もありましたし、そもそも「巨大な隕石が落ちてきたのに痕跡が残ってない」というのが問題でした。

National Park Service Digital Image Archives, Public domain, via Wikimedia Commons


しかし、その後メキシコ周辺ではイリジウムを含む地層が分厚くなっていることが分かってきました。

またその頃の植物の化石から、極端な気候変動があったという発表もされます。

「恐竜が絶滅する時にメキシコ付近で何かが起こり、地球全体が突然“生き物が住めないほど極寒の世界”になった」ということが分かってきたのです。

こうして隕石落下説の信憑性が高まっていきました。


あとは、その証拠である「クレーター」を見つけるだけ。


―つづく―


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