隕石がメキシコに落ちた日。
恐竜だけでなく、多くの生物が命を落としました。
それでも被害は地球全体から見れば一部に集中していて、間違ってもこれで恐竜が絶滅することはありません。
本当に怖かったのは「隕石が落ちたあと」の出来事です。
隕石はジェット機の1000倍の速度で落下してきました。
この速度は、引力を振り切って宇宙に行くこともできる速度です。
その衝撃で巻上げられた粉塵は、隕石によってオゾン層に開けられた穴を通り、成層圏まで飛んでいきました。
例えば噴火により巻上げられた粉塵の場合、対流圏を超えることはありません。
その場合、いつか雨と一緒に落ちてきます。
しかし、今回は雲ができる高度を遥かに超えています。
一旦ここまで上昇してしまうと、なかなか落ちてくることはありません。
立ち上った粉塵は3日ほどかけて地球全体を取り囲んでしまい、光を遮られた地上ではみるみる気温が下がっていきました。
恐竜達にとって最悪の事態「インパクト・ウィンター」の始まりです。
私達は毎年「冬」を経験しています。
地球が傾いている影響で日照時間が短くなって、気温が下るという理屈です。
しかし、冬でも太陽は出ています。
曇っていても、うっすら太陽の位置は分かるし、完全に見えないことがあってもそれが何日も続くことはそうそう無いでしょう。
そして、例えば日本が冬だとしても南半球は夏。
それが私達の知っている「通常の冬」です。
インパクト・ウィンターの原因となった雲は水蒸気ではありません。
何百万トンもの粉塵を含んだ雲が地球全体を覆ったのです。
恐竜達は、寒い暗闇の世界に閉じ込められました。
何日も、何週間も、何カ月も……
日光を遮られたため、光合成ができない植物が次々に枯れていきます。
そうなると、エサを大量に食べながら暮らしていた植物食の恐竜達が飢えで死んでいきます。
そして、それを糧にしていた肉食恐竜達も……。
寒い世界でエネルギー源も無ければ生きていくことはできません。
空を覆う雲が完全に晴れるには3年ほどかかったと考えられています。
もしかしたら、それでも生き延びていた恐竜も何種かいたかもしれません。
しかし、根底から破壊された生態系はそう簡単に修復できるものではありません。
これ以降、恐竜が地上の覇権を握ることはありませんでした……
これからは、今までずっと息を潜めて生きてきた「哺乳類」の時代です。